ビースティ・ボーイズのAD Rockが近年の音楽を全く聞かない理由を語る。若者に対しての意外なメッセージとは?
Writer: 渡邉航光(Kaz Skellington)
ヒップホップにおいて革命的
なグループと言ったら誰を思い浮かべるだろうか?70年代に生まれたヒップホップは、80年代に入りRun DMC、パブリック・エネミー、LL Cool Jなどのアーティストによりメインストリームに広まることになったが、その時代にヒップホップを大きく前進させたのがビースティ・ボーイズの1stアルバムであろう。ラップというジャンルにて史上初のビルボード1位を獲得した「Licensed to Ill」はまさに革命であった。
そんなヒップホップというジャンルだが、常に「若者は大御所をリスペクトしないといけない」という議論が行われている。例えばLil Yachtyなどは様々なアーティストに批判されており、常に先人にたいするリスペクトが求められているように思えてくる。ブラックミュージックをやっている人であれば、大体の人はそのように感じるのかもしれないが、一人全く違う意見を持った大御所がビースティ・ボーイズのAD Rockである。彼が最近の音楽について語るインタビューが面白かったので紹介したい。
Sway:なんで近年のラッパーとかアーティストを全然聞かないの?
AD Rock:めっちゃ忙しくて新しいものを聞く時間がないって言おうと思ったけど、よくよく考えてみたら俺全然忙しくないわ。毎日中華料理の出前を頼んでテレビ見るしかしてないしな…
まぁ確かに新しい音楽に興味はあるんだけど。例えばまだ発掘できてない70年代のレゲェ音楽もたくさんあるし、そういうのが好きだからあまり新しい音楽を聞く必要性がないのかな…?年をとると、世間と違う時代に取り残されるんだ。
「誰も年寄りがクラブで踊ってるのを見たくない」ってのが俺のセオリーなんだ。そもそも俺に現代のラップを聞いて欲しいと思う人なんていないと思うんだよ。正直、俺もどうでもいいと思ってる。
毎日暇を持て余している事実と、現代の音楽に全く触れていないということを語るAD Rock。「正直どうでもいい」という発言は今まであまり聞いたことがない内容だ。さらには若いアーティストについてはこのように語る。
AD Rock:例えばもし20歳のラッパーがいたとしたら、絶対俺のことなんてどうでもいいと感じてると思うね。俺のことを気にする若者なんかいないでしょ。
Sway:でも今のアーティストのためのパイオニアになったって意味ではかなり重要なんじゃないかな?
AD Rock:ラッパーはそういうのを気にしないものなんだよ!20歳のラッパーは先人たちなんてどうでもいいと思ってる。ラッパーってのはずっとそういうものだったし、だから俺は「ラップミュージック」が好きなんだ。音楽ジャンルのなかで、唯一それが許されるのが「ラッパー」だと思うんだ。
例えば今ロックやってる奴らは、絶対にレッド・ツェッペリンを聞いていないといけないという「暗黙のルール」がある。でも今の若いラッパーがPublic Enemyを聞かないといけないなんてルールはないんだ。だからラップミュージックというのは常に進化をしていて、常に新しくいれるんだ。だから若者は俺のことをどうでもいいと思っているだろうし、俺はむしろそうあってほしいと感じる。
この意見はかなり新鮮であるが、もしかしたら今まで音楽業界にて新しいフォーミュラでブレイクスルーを起こしたアーティストたちはそうだったのかも知れない。「他人の意見なんてFuckだ」というアーティストが成功しているのもそうであろう。確かにヒップホップが常にチャートの最前線で戦えているのも「常に進化」をしているからなのかもしれない。それを退化と呼ぶ人もいるが、過去のジャンルになっていないところを見ると、ヒップホップの進化は正しいものなのだろう。さらにはChuck Dと自分の若い頃を例にとり、こう語った。
AD Rock:Chuck Dなんかは若者と仲良くしてるけど、それは若者にいい顔をしようとしてやってるんじゃないんだ。彼は自分の好きなことを広める意図もあるけど、若者を愛し、彼らの手助けをしようとしてるんだ。
俺は個人的にヒップホップファンがPublic Enemyの1stアルバムとJungle Brothersの1stと2ndを聞かないのはもったいないと思うけど、俺はもう48歳(2015年当時)なんだよ。誰も48歳の言うことなんか聞くわけないでしょ。俺も若い頃はビートルズとかの「古い音楽」は聞いちゃいけないと思ってたよ。音楽をちゃんとやりはじめてしばらくたってから「ビートルズめっちゃいい曲書くな」って気がついて、リスペクトをするようになったけど。でも若い人たちは若い人たちの世界、年寄りは年寄りの世界、って感じで「世代」というのは回ってるんだ。
Sway:ってことは「ラップミュージック」というものは「消費/使い捨て」されるものってことなのかな?
AD Rock:うわぁそういう方向では全く考えてなかったけど、もしかしたらある意味そうなのかもしれないな…
最後は自信なさげになってしまったが、彼の言っていることは一理あると感じる。彼の意見は「縦のつながりが強い」ブラックミュージック界ではかなり新鮮かもしれないが、彼の真の意図はこうだろう。「気がつく人は必要なタイミングで気がつく、押し付ける必要はない」。「老害」にならずに「自由」にやらせ、若者たちは自分たちで気づきを得て、成長する。スヌープ・ドッグ、Rakim、Thundercatの父親が言っていた内容と共通するが、やはりこれが何よりも大切なのかも知れない。
ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington)カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼、Playatunerの代表。FUJI ROCK 2015に出演したumber session tribeのMCでもある。
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