2016年にリリースされたプロテスト曲を5曲厳選し、解説。
プロテスト精神とヒップホップ
我々が尊敬するアーティストたちの作る曲には、涙を誘うような曲もあれば、ストーリーを伝えるような曲もある。彼らはリリックに魂を込め、リスナーをインスパイアするのだ。自身の曲というプラットフォームを、発信の場としても利用するアーティストたちも多い。パブリック・エネミーやN.W.A.などのアーティストが思い浮かぶなか、2016年は近年では政治や警察とヒップホップの関係が目立った年であろう。2016にリリースされたプロテスト曲のなかから、5曲を厳選してみたので紹介したいと思う。
Run The Jewels – 2100 ft. Boots
Run The Jewels(ラン・ザ・ジュエルズ)は、Killer Mike(キラー・マイク)とEl-P(エル・ピー)によるヒップホップグループである。この曲は大統領選が終了した翌日に公開された。
“I’m here to tell you don’t let em tell you what’s right wrong / Make love, smoke kush, try to laugh hard, and live long.”
「何が正しいか、間違っているかとかは他人に言わせるな。愛を営もう、マリファナを吸おう、たくさん笑おう、そして長生きしよう」
トランプが大統領選にて選ばれたことによる、人々のネガティブな意見の鎮静化などを目的としていると推測ができる。RTJのメッセージは、さまざまな問題を抱えている現代社会にとってとても重要なものだ。
A Tribe Called Quest – We the People…
この曲は間違いなく彼らの最新アルバム「We Got It From Here… Thank You 4 Your Service」の中でも、もっとも政治色が濃いトラックと言っても過言ではないだろう。また同アルバムは時代にとらわれないクオリティーを持っていると言える。当曲のアメリカ憲法になぞりながら、展開していくリリックは素晴らしい。
Vic Mensa – 16 Shots
Vic Mensaはイリノイ州シカゴ出身で、グラミー賞にノミネート経験もある23歳のラッパーである。この曲は17歳のLaquan McDonaldが、シカゴ市警察に16回撃たれ、死亡した事件が題材となっている。この少年は、小型ナイフを持っているという通報から、銃で撃たれたのである。警官は最初の銃撃で少年が既に倒れたにも関わらず、15秒間の間も彼を撃ち続けた。警察は、「少年が怪しい行動をしていた」「警官に突進してきた」と説明をしているが、撮影された映像は説明とはまったく違う内容であった。
YG & Nipsey Hussle – FDT (Fuck Donald Trump)
2016年のプロテストソングと言えば、この曲だろう。メキシコ人にたいして差別的な発言をしていたドナルド・トランプが、YGとNipsey Hussleの怒りに火を付けたのだ。どの国のリスナーが聞いても、耳に残る「Fuck Donald Trump!」を連呼したサビは2016年を表す曲だ。
メキシコの麻薬王El Chapoがドナルド・トランプを始末するような発言をしたことを、リリックにするなど、YGの怒りはFDT内だけにとどまらなかった。(アメリカのシークレット・サービスにより、過激すぎるリリックは削除されている)
ScHoolboy Q – Black THougHts
この曲では、アメリカの貧困地域にて頻発するギャング関連の犯罪について彼はラップをしている。そのような地域では、ギャングに属し、イメージ通りのストリートライフを生きることがマジョリティとなっているが、「そのような貧困地域のステレオタイプに沿った人生を歩むことをやめよう」と提案しているのである。
「ギャング」という世界にとらわれて、辛い人生を歩むことを「奴隷」と比喩し、「ギャング犯罪をやめて子育てなど、本当に人類にとって大切なことをしろ」と語っている。
いかがだろうか?このようにして並べてみると、ヒップホップという音楽に込められたパワーが伝わってくる。「ファンクと社会」という記事でも書いた通り、ファンクから受け継がれてきたこのパワーは、黒人であることの賛美歌であり、音楽による魂の叫びなのだ。このように、不条理を前にしたときに本領を発揮するのが、ヒップホップの最大の強みなのかもしれない。
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