2016年にケンドリック・ラマーがフィーチャーされた曲からお気に入りのヴァースを5つ解説

Writer: 渡邉航光(Kaz Skellington)

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www.kendricklamar.com

 

ケンドリック・ラマーにとっては今年は主にフィーチャリングの年となった。今年の頭にTo Pimp a Butterflyに収録されなかった曲を集め、「untitled unmastered.」をリリースしたが、今年は特にフィーチャリングで目立つことが多かった印象だ。

そんなケンドリックが2016年にフィーチャリングされた曲のなかでお気に入りのヴァースを5つ選んでみた。なお、音源も聴いて欲しいのでYouTubeにアップされていない曲はカウントしないとする。

 

Mistah F.A.B. – Survive ft. Kendrick Lamar, Crooked I, Kobe Honeycutt


フローとしてはTBAPよりはgood kid, m.A.A.d cityよりのスタイルと言っていいだろう。悲しげなトラックの上で貧困地域にて起こる犯罪などについてラップするケンドリックは、彼の初期作品に見えるストレートさでもある。

Cause nine times out of ten, MAC 11’s cry / And twelve died yesterday and if anyone divides / The six that carried you eventually lose they lives / True story

9/10の確率でマック11(サブマシンガンの種類)が鳴く。昨日は12人が亡くなり、誰かが別れるとしたら(棺桶を)運ぶ6人がまた命を落とす。本当の話しだ。

ここでケンドリックは上手く数字を使用し、言葉遊びを見せている。9、10、11、12、12÷2で6という並びになっている数字には全て意味があり、武器の名前(マック11)、棺桶を運ぶ人数(6人)という中々のリリシズムが出来上がっている。

 

Funkadelic – Ain’t That Funkin’ Kinda Hard on You? (Remix) ft. Kendrick Lamar, Ice Cube


ケンドリックのファンクからの影響はTPABで明らかになったのでこのコラボはそこまで驚かなかった。ヴァースは「untitled unmastered.」の“untitled 08”と同じであるが、untitledヴァージョンのほうが正直テンポ的にもマッチしている。

You plead the fifth, I read the fifth amendment / We both criminals with bad intention

あなたは黙秘権を使う。私は憲法第5上を読む。私たちは同じ悪意を持った罪人だ。

自分の不利にならないように黙秘権を使う罪人も、沈黙をしていることを解釈を曲げる警察や検事も、もしかしたら同じ悪意をもっているのかもしれない、と主張している。

 

DJ Khaled – Holy Key ft. Kendrick Lamar, Big Sean & Betty Wright


今年一番目立ったプロデューサーと言ったらDJ Khaledだろう。モダンな音を使用しながらも確実にヒップホップを感じることができる新世代を代表するプロデューサーだ。そんな彼がBig Seanとケンドリックをフィーチャーした曲が素晴らしかった。しかしこの曲に関して完全にBig Seanのほうがグッと来たのでBig Seanのリリックを紹介する

Father help us police doing target practice with real bodies / Mommas in the streets, crying, standing over a still body / Doctor King meet Dr. Dre / Except this doctor lost all his patience

神よ助けてくれ、警察は動く本物の体に向けて射撃演習をしている。母親は動かない体の上で泣いている。ドクター・キング(キング牧師)がドクター・ドレーと重なる。ただドレーのほうはもう我慢できなくなってしまった。

ここでは動く体/動かない体を対比している。さらにキング牧師とドレーがどちらも黒人のために活動していた「ドクター」であっても前者は平和なプロテストで、後者はN.W.A.という対比、そして「Patience(忍耐)」という言葉は同発音の「Patients(患者)」とかかっており、「患者を失ってしまった」という意味にもなる。だたの差別ではなく、多くの黒人が警察に殺されているという現状を巧みな言葉遊びで語ったのである。

 

Isaiah Rashad – Wat’s Wrong Ft Zacari & Kendrick Lamar


この曲のフローや声はおなじみのケンドリックだ。このようなトラックにてケンドリックの声を聴くと安心するのは私だけであろうか? 安心するとは裏腹にリリックの内容はなかなか攻めている。

And I believe in Kool-Aid and God’s son / Do you believe that Black man is our sun?

俺はクールエイドと神の息子を信じている。黒人が皆の太陽/息子だと信じるか?

まずこのKool-Aidという飲み物はとても安く、フッドの子供たちにも絶大な人気を誇るジュースである。そしてスヌープが今年リリースしたアルバム「Cool-Aid」ともかかっている。さらに神の子というのはキリストのことであるが、Nasのアルバム名でもある。自分のルーツや宗教観とラップの先人たちの作品を言葉遊びで引っ掛けながら、信じているものを語っている。

 

Danny Brown – Really Doe ft. Kendrick Lamar, Ab-Soul, Earl Sweatshirt


まずこの曲の凄さは言葉を入れるところと休符のタイム感が素晴らしいところだ。これはラッパーとしてはもちろん、ミュージシャンとしてのケンドリックの一面を見ることができる。言葉を進めたり、止めたりの絶妙なバランスが他のラッパーと一線を画する。

この世代で最も重要なラッパーと言っても過言ではないケンドリック。彼の2016年のヴァースをおさらいすることで、この時代にどのような出来事が起こっているのかが見えてくるであろう。

ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington)カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼、Playatunerの代表。umber session tribeのMCとしても活動をしている。

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