トリップホップが作り上げたヒップホップの拡張性
Writer: Akashi
トリップホップというジャンルをご存知だろうか。
日本にもトリップホップからの影響を公言している若手アーティストが近年数多くいることから名前だけは知っている、という方もいるのではないだろうか。Massive attack(マッシブ・アタック)などを主要アーティストとして発展した、「ヒップホップの影響を受けて生まれたジャンル」であると言われているが、現在ではエレクトロニカに取って代わられている、とも言われている。
だがトリップホップアーティストと呼ばれる人の作品を聞いていると、所謂エレクトロニカともまた違ったニュアンスの電子音楽を作っているのではないか、というふうにも感じられる。
具体的には後期アシッドハウス、ソウル、ファンク、R&B、アンビエントなどの影響を受けたビート感が強めの電子音楽というイメージだ。だがトリップホップの枠組み内に位置するアーティストの多様さ故に明確なイメージをトリップホップに抱いている人はあまりいないのではないか。正直このジャンル名に限らず音楽におけるジャンル名はあまり聴取の上では役に立たないことが多い上に、リスナーに余計な先入観を抱かせる場合も多く、アーティスト側がそのジャンル名を敬遠するケースも少なくない。
実際にMassive Attackはトリップホップというジャンル名を嫌悪しているようだ。こうした安易なカテゴライズやレッテル貼りとは無縁に、独自に音楽制作に没頭してきたことが想像できるアーティスト達が、一括りにトリップホップというジャンルの枠に当てはめられていることには当然ながら何とも言えない疑念が抱かれる。
トリップホップはアブストラクト・ヒップホップとも形容されることがあるが、一聴する限りではヒップホップとの繋がりがあまり見えない、と感じる場合もあるだろう。Massive Attackと並んでトリップホップの代表格と言われるPortisheadの楽曲を聴いて頂きたい。
上記楽曲からも伺えるようにヒップホップの精神(黒人性、批評性、メッセージ性)は楽曲内に存在するものの、それらは主にラップや歌唱などのボーカリゼーションに、ではなくトラックの方に込められている。そうした選択はヒップホップカルチャーを正当に捉えた結果でもあると言える。ラップ=ヒップホップという曲解をせず、ヒップホップというカルチャーを表現するための手法として「ラップ」と「ヒップホップ的なトラックメイキング」を明確に区分していたが故に、成された選択であるといえよう。
こちらのColdcutはあまりトリップホップの文脈で語られることは多くないが、DJ Shadowなどのアーティストともコラボしていることから、トリップホップの系統に位置していると言える。
こうして聴くとサウンド自体は実に多様で、音楽性自体を一概化して語るのは実に難しい。
しかし一つ言えることとしては、トリップホップがヒップホップとの結びつきを示唆されたことによってトリップホップが持つ内省性、メランコリックさなど、ヒップホップが欠落している傾向にあった要素をトリップホップがヒップホップに還元したということだ。そしてヒップホップが内包するサウンドの革新性の更なる可能性を具体化したと言える。
ヒップホップが所謂ホモソーシャルかつ、肉体的な音楽としてメインストリームに届くケースが多く、野蛮さや社会的有害性などが無闇矢鱈とクローズアップされていた時代に、トリップホップという派生ジャンルが登場し、ヒップホップの精神性を受け継ぎつつも音楽的可能性をさらに拡張することに努めた結果が「エレクトロニカ・ヒップホップ」などのジャンルを生み出すことに繋がったのだろう。
こうした様々な派生ジャンルの登場と躍進によってヒップホップは今も尚我々にフレッシュな音像を届けているのだ。エレクトロニカ・ヒップホップの代表格であるPrefuse 73については以下参照
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