【長編考察記事】The Black Eyed Peas初期はガチなヒップホップだった

Writer: 渡邉航光(Kaz Skellington)
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数々のヒット曲を出しきたThe Black Eyed Peas


もはやその名前を知らない人はいないであろう。「Hey Mama」や「Where is the Love」などの中期のポップ/ヒップホップナンバーから、「I Gotta Feeling」や「Boom Boom Pow」などのクラブヒット曲を世の中に出してきた。

彼らは日本でのキャッチフレーズが「猿でも分かる〇〇」というぐらい誰でも分かりやすい音楽をやってきたと思われている。この記事では、そんな「音楽性を変えた」BEPの歴史をおさらいし「売れる音楽」をつくるようになった彼らを考察しようと思う。

 

6年前に出て大ヒットしたこの曲、コメントでは10代が「この時代のBEPと音楽は最高だった」と言っているが、彼らが言う「この時代のBEP」は結構後期である。当時この曲が出た時は初期からファンであった人からすると「こんなBEPなんて聞きたくないよ〜」ってなっている人が多かった印象がある。

そしてほとんどの人がBEPをポップグループだと思っているが、元々この人たちはとんでもなく才能のあるヒップホップアーティストなのだ。

 

BEPの初期を聞くとそこにはヒップホップがある。


まずは初期のBEPと歴史を紹介しようと思う。BEPの初期はメンバーは

Will.i.am: Vocal, Piano(真ん中)

Apl.de.ap: Vocal, Drums (右)

Taboo: Vocal, DJ (左)

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そう、実は初期はFergieがいなかったのである。

BEPの歴史を語る上で欠かせないのはWill.i.amとApl.de.apが高校時代にやっていたAtban Klann(アトバン・クラン)である。

 

このAtban KlannはWill.i.am、Apl.de.apとDante Santiagoの三人がやっていたヒップホップグループであり、なんと1992年にデビューしている。そして契約していたレーベルがなんと…

Eazy-Eが率いるRuthless Records

Easy-Eといえばご存知N.W.A.のメンバーであり、ギャングスタラップの祖と言っても過言ではない。実際にあのN.W.AもRuthless Recordsの所属であり、ヒップホップレーベルとしての知名度は抜群であった。しかし1995年にレーベルの代表かつ、N.W.A.リーダーのEasy-Eが亡くなったことをきっかけでレーベルから離脱。

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https://journalsoftheworld.com/2016/03/31/

 

The Black Eyed Peasの結成


Ruthless Recordsを離脱した後、Diego SantiagoとTabooを入れ替え、名前をThe Black Eyed Peasに変更した。Black Eyed Peasとして1stアルバム、「Behind the Front」をリリースしたのだが、このアルバムがなかなかドープなのである。

 

この時代のBEPはA Tribe Called Quest等の80年代〜90年代前半のヒップホップから影響を受けている曲が多く、お洒落でリラクシングなサウンドのトラックが特徴だ。

そしてサンプリングだけではなく生音の楽器を多様したり、ライブ中にメンバー同士のブレイクダンスバトル等を取り入れたり、そのような新しい試みが彼らの名をLAのアンダーグランドにて押し上げた。(元々この三人はブレイクダンス出身)

このアルバムのほとんどのトラックはWill.i.amがプロデュース/作曲していて、ヒップホッププロデューサー/ラッパーとしての才能を見ることができる。しかも中期のElephunkやMonkey Businessと比べるとかなりラップのレベルが高い。

 

2ndアルバム「Bridging the Gap」


 

1枚目は大ヒットには恵まれず、2000年に2ndアルバム「Bridgin the Gap」をリリースした彼らのサウンドは、さらにヒップホップ色が強くなっていた。

なんと1曲目はあのDJ PREMIERがプロデュースしている

ヒップホップファンであればわかると思うが、ラッパーにとってDJ Premierにトラックを提供してもらうというのは一つのステータスであり、その曲もかなりDopeである。

さらにはDe la Soul、FugeesのWyclef Jean、Mos Def、Jurassic 5のChali 2na、Macy Gray等の名だたるアーティストをアルバムでフィーチャーするという「なんだこれ!豪華すぎんだろ!!」って言いたくなうようなアルバムである。

 

何が面白いかと言うとこのアルバムでは

「俺らは本当のMCであり、一般受けを狙った弱い”売れセン”ラッパーとは違う」という内容が多いことだ。

この頃ちょうどヒップホップはポップと融合をし、かなりポップな”売れセン”ヒップホップが流行り始めたころである。BEPの曲でも「今出ているヒップホップは一般受け狙って売れたりしているけどそんなの俺にとってはヒップホップじゃないんだ、俺らは真のMCとしてヒップホップを続ける」的な内容が多かった。実際にこのアルバムも一般的なヒットに恵まれることはなく、ヒップホップファンの中でとどまった。そんなBEPだがこの次のアルバムでサウンドがガラリと変わるとは誰も想像していなかったであろう。

 

Fergieの加入と転換期


 

3rdアルバムで今までバックグランドボーカルをやっていた女性ボーカルが辞めたことにより、Fergieをレコーディングに起用したのだ。思ったよりFergieが上手く当てはまったので、当時のレーベルのInterscope Recordsの社長がFergieをBEPに加入させたのである。そこで出来上がったのが初の一般的な大ヒットとなった3rdアルバム「Elephunk

このアルバムからは「Where is the Love?」「Shut up」「Hey Mama」「Let’s get it Started」などのヒット曲が世に送り出され、今までのサウンドとは違い、かなりポップスの要素を取り入れたアルバムとなっている。内容もかなりソフトであり、世界の万人が共通して感じることができるリリックを起用していった。これがBEP最後のギリギリ「ヒップホップ」と呼べるアルバムであろう。ちなみに私はこのアルバムかなり好きである。

実際Will.i.amのプロデュースのセンスはこの時期も健在であり、曲もかなり良い。Hey MamaのPVではメンバーのブレイクダンスも見ることが出来る。今までの泥臭いヒップホップグループにセクシーさが加わり、他のグループを凌駕する勢いで売れていった。

この次のアルバム「Monkey Business」で離れていったヒップホップファンは多分多いであろう。その後ももちろん「Like That」みたいなヒップホップの曲はあったあまり注目されなかった。ここからは多分皆さんが知っているBEPであり、テレビやラジオで聞こえてくるBEPであるので深くは書かない。

 

「売れる音楽」とカルチャーが伴った音楽


果たして良い音楽が本当に売れるのか?「良い」という定義にもよるであろう。万人が理解できる物が「良い」のか、今まで積み重なったカルチャーを尊重した音楽が「良い」のか。

特にヒップホップとなるとブラックミュージックの歴史の積み重ねの上にできているもので、歌詞がアートの粋に入っている。歌詞にメッセージを込め、韻を踏むパターンや言葉の入れ方を綿密に考える。聞き手も深く考察しながら、その歌詞から一つの映画を見た後のような感覚を得る。

しかしそのような音楽は売れない。

ラッパー用語で「Dumb it down」というフレーズがある。これはいわゆる「誰でもわかるように歌詞やラップのレベルを下げる」という意味である。韻も簡単にし、フロー(ラップの流れる感じ)も誰もが覚えることができるぐらいシンプルにするという意味である。

冒頭で書いたBEPのキャッチフレーズの「猿でもわかる◯◯」。これはまさにBEPが「Dumb it Down」をした結果であろう。BEPの歴史をおさらいすることにより、アーティストとして音楽業界で「儲ける」ということがどのような事かということがわかる。もちろん現代ではJ. Coleやケンドリックのように「自分が信じているもの」を全力でやるアーティストが売れる時代性や社会的な流れもあるが、特に2000年代のヒップホップの流れとしてはポップスに近づけるのが一番の道だったのだろう。

特に初期の3人のヒップホップに対する思いは本物だと感じる。一番ヒップホップが熱い時代にブレイクダンスやラップをはじめ、伝説のヒップホップアーティストに熱い思いを寄せながらゲットしたRuthless Recordsとの契約…

その後も憧れていたヒップホップの伝説的なアーティストとコラボをし、2000年に入ってもガチなヒップホップをやっていた彼らも「音楽業界での成功」を得るために自分たちが今まで批判していたようなアーティストになることを選択したのであろう。

BEPのヒップホップからの変換が語られる時は大体Fergieのせいにされる。しかしFergieもBEP初期に小さなライブハウスで彼らを見て以来ずっとファンだったこともあり、ヒップホップが好きなのであろう。

音楽業界で大きな成功をおさめるために彼らのしてきた「明らかな一般受けを狙う」という行動はたしかにヒップホップファンからすると批判の対象になるかもしれないが、世界に名前を広め、生き抜く術をきちんと遂行していったと考えるとリスペクトできる。何よりも本人たちは90年代から売れない思いをずっとしてきて「何かを変えないといけない」という焦りもあったのかも知れないし、単純に色々な音楽を気軽にやるぐらい気持ちが落ち着いたのかも知れない。

上記をふまえた上で、彼らがリリースした「Yesterday」を聞くと感動する。

 

BEPがApple Music限定でリリースした「ヒップホップ」


この曲は「昨日(過去)に戻りたい」という曲で、ストレートなヒップホップを体現している。この曲の何が凄いかというと、曲の「昔のヒップホップに戻る」という内容と共に29ものヒップホップ名曲の一部を所々に使いヒップホップの歴史をリスペクトしている。

使われているトラック

  • De La Soul – A Roller Skating Jam Named Saturdays
  • Mohawks – The Champ
  • Black Sheep – The Choice Is Yours
  • Digable Planets – Rebirth Of Slick (Cool Like Dat)
  • EPMD – You Gots To Chill / 1:42 = A Tribe Called Quest – Scenario
  • Kool and the Gang – Soul Vibrations (or Joe Budden Pump it up)
  • Pete Rock & CL Smooth – They Reminisce Over You(T.R.O.Y.)
  • Ol’ Dirty Bastard – Shimmy Shimmy Ya
  • Cypress Hill – Insane In The Brain + Public Enemy – Night of the Living Baseheads
  • NWA – Straight Outta Compton
  • Wu Tang Clan – Wu Tang Clan Ain’t Nuthin’ To Fuck With
  • KRS-One – Sound of da Police
  • LL Cool J-Rock The Bells

そしてそれに対応するレコードをDigするという素晴らしいMVとなっている。どんなに音楽性がポップになっても彼らの心の中にはずっとヒップホップがあり、このように最大のリスペクトを込めた曲でカムバックするのは素直に感動をした。

皆さんが知っているThe Black Eyed Peas、その歴史と思いをおさらいしてみていかがでしたか?BEPをきっかけにヒップホップに入った人もかなりいるのではないでしょうか?

ライター:渡邉航光(Kaz Skellington)
カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼、Steezy, incの代表。FUJI ROCK 2015に出演したumber session tribeのMCとしても活動をしている。

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