J. Coleの新ドキュメンタリー「4 Your Eyez Only」が素晴らしい。様々な地域をフィーチャーした「現実」を紹介

 

ヒップホップ業界

はここ数日はケンドリックの話題で持ち切りであったが、その間にも素晴らしい作品が披露されていた。特にそのなかでも私が楽しみにしていたのがJ. Coleの「4 Your Eyez Only」のドキュメンタリーである。この作品は涙なしには聞けない作品となっており、貧民街にて起こる「道の分かれ目」と「愛」のコントラストはまさに映像作品になるべきだと感じていた。

今回のドキュメンタリーではルイジアナ州のバトン・ルージュ、ジョージア州のアトランタ、ミズーリ州のファーガソン、ノースカロライナ州のファイエットビル(コールの出身地)、アーカンソー州のジョーンズボロ(コールの父親の出身地)と、近年話題に挙がった街がフィーチャーされている。これらの街に住む人達の日常にスポットライトを当てながら、アルバム収録曲のパフォーマンスも挿入されているのだ。HBOにて公開されたので、公式のフルバージョンはネットに出回っていないが、非公式の映像自体は探せば出てくるようだ。このドキュメンタリーを見て感銘を受けたので、印象に残っている部分を紹介したいと思う。

 

バトン・ルージュの老人


序盤でフィーチャーされるなかで注目したのは、イリノイ州バトン・ルージュでの老人女性の話である。バトン・ルージュは2016年に洪水被害にあっており、近年米国にて起こった災害なかではトップレベルの被害だったと報じられている。その中でJ. Coleはとある老人女性の元を訪れる。彼女の家は洪水の被害に合い、家具、キッチン、壁など、ほぼ全てのものが流されて破壊されてしまったのだ。その破壊のされ方はとてつもなく、ほぼ部屋の原型をとどめていない状態である。そんな老人女性はこのように語る。

私は全部の片付け/修復を自分でやるつもり。だってあの人達(政府)には頼れないし、手を貸してくれないもの。全部修復し終わったら座って「やっと終わったわ」って言うのよ。

廃材に囲まれて気分が悪くなり、一休みをするために座り込むお婆ちゃんはこう語った。「政府は助けてくれないから自分でやるしかない」とても考えさせられる。これは米国だけの話だけではなく、日本にも共通することであると感じ、災害後の政府の対応などについてさらに勉強したくなる内容であった。

 

ファーガソンのChange


もう一つかなり印象に残ったのはJ. Coleがミズーリ州ファーガソンを訪れたときの映像だ。ファーガソンと言えば警官がマイケル・ブラウン氏を殺害し、暴動が起きた場所である。そこでは男性たちがJ. Coleと「どのようにしたら状況を改善できるか」という議論しているのだ。ファーガソンでは人口の67%が黒人であるが、6人の市議会員のうちの5人が白人であると語られている。「冷遇されている状況を少しでも変えるためには、少しでも多くの人を投票に向かわせないといけない」とJ. Coleをそっちのけで議論する黒人男性たちはこう語る。

男性A:状況変えたいし、俺は自分の声を世の中に届けたいと思っているよ…!俺らのなかには頭の良い人もいるし、俺も学校に通っていたときは成績はかなり良かった。でも俺は2度も有罪判決で重罪になっているから投票ができないんだ。

男性B:それでも投票はできるんだ。もしできなかったとしても、皆に投票にいくようにツイッターで呼びかけたり、フライヤーを配ったり、電話をしたりいくらでも参加をする方法はあるはずだ。

男性A:俺は息子も娘もいるんだ。そんなことをする時間はないし、「普通の善良市民」にいるためには時間が必要なんだ。そのような活動ができると思うか?

男性B:わかるよ。俺もそのような状況だしその気持はよくわかる。それでも俺たちは1日1時間でも見つけて「ブラザーたちに投票にいくように電話する」とか何か行動を起こさないといけないんだ!システムを変えるには内部から変わらないといけないんだ!

彼は「システムを変えるには内部から変わらないといけない」と言った瞬間にJ. Coleの「Change」が流れるのであった。「真の変化は内部からじゃないとおきない」という内容の曲の解説はこちら

 

 

父親の故郷と歴史


J. Coleは自分の父親と、彼の故郷のアーカンソー州ジョーンズボロに訪れた。彼のルーツを知るために、ジョーンズボロの黒人の歴史が刻まれている展示室にてJ. Coleは父親と友人から様々なエピソードを聞くのだ。

父親の友人:これが1975年にこの街ではじめて黒人で警察官になった人の写真だ。彼は当時警官たちからも、仲間の黒人たちからもバッシングを受けたんだ。仲間たちには批判され、警察官たちからもハラスメントを受けたりしていた。さらにこちらがこの街から軍隊に入った黒人たちだ。

J. Cole:当時はこの街の黒人で軍隊に入ることがおおごとだったの?

父親の友人:そうだな。やはり貧困層からすると軍隊に入るしか抜け道がないんだ。

Coleの父:入隊した友人がいい服着て、金持って帰ってきたときは「俺も学校いかないで軍隊にいこう」って思ったさ。

はじめての警察官になった人が「仲間の黒人たちからもバッシングを受けた」と言われているが、上の章の「変化を内部から起こそうとした」人だったのだろうと感じる。自分がどう思われるかを恐れず、地域のために行動を起こす彼のような人はとても重要な役割を担うのだろう。

 

希望を常に胸に


これはドキュメンタリーのラストシーンとなるのだが、日が暮れてJ. Coleが帰ろうとしたときにとある女性に会う。52歳であり、とても明るくポジティブな彼女は、今1つ目の仕事を終え、2つ目の仕事に向かうところだと言う。彼女は3つの仕事を掛け持ちしており、9歳の孫もいるお婆ちゃんなのである。J. Coleは彼女の話を聞いているうちに、彼女の息子と娘は若くして殺害されたことを知る。

女性:息子は19歳のときに友人と喧嘩になって、友人に銃で頭を撃たれて亡くなったわ。娘は14歳のときに近所の13歳にレイプされたときに地面に頭を打って亡くなった。でも全部乗り越えて、前を見て進まないといけないわ。

J. Cole:…あなたは美しいスピリットを持っている方ですね。こうやって話しかけても「失せろ」とはならないで、とてもポジティブに対応してくれた。俺が想像もできないような苦悩と悲しいことを経験しているにも関わらず、あなたはとても光っている。

女性:神は私をここに存在させている意味があると思うの。私も皆も全員が痛みを感じて混乱をしているし、怒りを感じている。だから「どうでもいい」と思い、どの道を歩けばいいのかわからずになんでもやってしまう。私は「神」が答えだと信じて、前を向くの。

 

このように想像もできないほどの悲劇を乗り越え、痛みを感じても自分が信じるものに希望を持ち続ける彼女はとても強いと感じた。J. Coleは音楽だけではなく、このように映像にて「4 Your Eyez Only」のメッセージを私たちに残してくれたのだ。毎日大変な想いをしている人たち、冷遇されている人たち、世の中の理不尽に立ち向かおうとしている人たちをフィーチャーし、実際に地域で起きている「現実」を私たちに紹介してくれている。現実で起こっている問題を知り、それに対して行動をすることの大切さを教えてくれる。

J. Coleの「4 Your Eyez Only」から印象に残ったリリック8つを解説。映画のようなストーリーと最大のオチとは?

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