【第1弾】ストーリーとオチのあるヒップホップ曲5選!各ストーリーの解説/考察
Writer:マサトッシュ Editor: Playatuner
リリシストが魅せるストーリー
ヒップホップの内容と言ったら「ドラッグやギャング」というステレオタイプがあるだろう。確かに流行りの曲であったり、一般的にクラブバンガーになる曲はそのような内容が多い。しかしストーリーを伝え、リスナーを魅了するMCたちが多いのもヒップホップの特徴であろう。先日の「シェイクスピア以上の語彙力を持ったラッパーたち」や「Ab-SoulのEvil Genius」からも理解できるようにヒップホップは非常にアカデミックなジャンルでもあるのだ。語彙力の次は「ストーリー性」に注目し、オチのある曲を5曲選んでみた。第2弾はこちら。
MC Lyte – Poor Georgie
初のメインストリーム女性ラッパーとしても知られるMC Lyte。
ストーリー:ある日MC Lyteはクラブでジョージという男と知り合い、電話を重ねていくうちに彼女はジョージのことが好きになる。ジョージはドラッグなどをやらないクリーンな人であったが、たまにクラブで酒を飲み過ぎることがあった。車に乗って帰ろうとする彼を止めようとしたが、喧嘩になり彼はMC Lyteの反対を振り切って運転してしまう。オチとしては飲酒運転をしていた彼はトラックに突っ込んで亡くなってしまう。
メッセージ:このシンプルなストーリーからは複数のメッセージを読み取ることができる。1つめは「生き急ぐな」というメッセージである。この曲に出てくるジョージは実は癌を患っており、先は長くなかったが、残された人生を大切にして生きてほしかったと語っている。2つめは「明日は誰にも約束されていない」というメッセージであり、「自分の身に起こらないなんて思うな」と最後のラインで語っている。3つめは「明日は誰にも約束されていないので、伝えたいことは伝えよう」というメッセージであり、MC Lyteはジョージに好きだと伝えれなかったことを後悔している。ちなみにMC Lyteの後ろで踊る赤いパーカーの女の子は若き日のローリン・ヒルである。
Common – I Used to Love H.E.R.
ヒップホップ業界のトップラッパーのうちの一人とも言えるCommon(コモン)。彼のこの曲をヒップホップ史上最高傑作としているサイトなども複数ある。
ストーリー:冒頭では10歳の頃にとある女性と出会い、彼女がコモンにとって特別な存在になっていく様子が描かれている。ニューヨークにいる頃の彼女は純粋で汚れの無い人であり、常にコモンの側にいてくれた。彼女から感じる「ソウル」をリスペクトしており、コモンは西海岸に渡る彼女を見守っていたのだ。クリエイティブな彼女はLAにてさまざまな方法でお金を稼ぎ、メディアにも出るようになったが、同時にャングとつるんだり、常にウィードを吸っているような人になってしまった。変わってしまった彼女の悪化を止めて、自分が更生させてあげると終盤で語るが、実はこの曲で出てくる「彼女」とは「ヒップホップ」のことなのである。最後のラインとなる「‘Cause who I’m talking ‘bout, y’all, is hip-hop(俺が言っている「彼女」とはヒップホップのことだからだ)」というオチはヒップホップ史上最高のオチであろう。
メッセージ:この曲はNYのブロンクスにてはじまったヒップホップというものが、ソウルフルであり、黒人であることを祝うような音楽であったが、西海岸に渡り変わってしまったというメッセージが込められている。この曲を聞き、西海岸をディスられたと感じたIce Cubeはコモンと対立し、ビーフに繋がっている。
Eminem – Stan
この曲の1、2、3ヴァース目はエミネムの熱狂的なファン、「スタンリー」の視点で書かれている。
ストーリー:スタンリーは熱狂的なエミネムのファンだ。彼はエミネムに対してファンレターを書いたが、何の返信も無かったので、さらにファンレターを送りつづけるのだ。そこには彼女が妊娠中で、もし娘が産まれたらエミネムの楽曲「97′ Bonnie & Clyde」から名前をつけると書いてあったり、その熱狂っぷりが書かれている。2ndヴァースではエミネムの名前を胸に彫ったという旨や、妊娠中の彼女がエミネムに嫉妬しているという旨が書かれており、エミネムに対しての気持ちがエスカレートしているのがわかる。さらにはエミネムがふざけてラップした内容を真に受け、手首を切ったりしているということを報告したり、「俺とエミネムは一緒になるべき運命なんだ」という狂気を感じる内容になっている。
次のファンレターでスタンリーの怒りは爆発する。「6ヶ月何の返信もないとはどういうことだ?最後の手紙としてこのカセットお前に送ってやる!」エミネムが返信してこないことに腹をたてた彼は、妊娠中の彼女を乗せた車にて飲酒運転をしながらカセットを録音するのだ。「お前が返信しないから、こんなことになったんだ!」とカセットに吹き込む彼であるが、そのまま橋から車が転落し、カセットを送れないまま彼の視点が終わり、次はエミネムの視点に移る。
最後のヴァースはエミネム視点であり、スタンリーに返信を書いているシーンではじまる。忙しくて返信できなかった旨、熱狂しすぎていて精神的によくないからカウセリングを受けることを進める旨、彼女を大切にしてほしいという旨など、エミネムの文章からはスタンリーを更生させようとする気持ちが伝わってくる。
そして曲の最大のオチとなるパートに入る。
「とにかくクレイジーなことをやってほしくないんだ。こないだ気味の悪い事件をニュースで見て… ある男が飲酒運転しながら車ごと川に落ちたんだけど、そこには妊娠してた女性がトランクに縛り付けられてたらしいんだ。車を引き上げた警察によると、車内にはカセットテープがあったけど誰宛なのかはわからなかったらしいんだ…
思い返してみると確かそいつの名前は….あ、お前だ…まじか…」
メッセージ:かなり後味の悪いオチだが、一線を越えてたファンが狂気に満ちてく描写がよく伝わってくる。
Slick Rick – Children’s Story
ラップでストーリーを展開させるのはこの人のお家芸であり、様々なアーティストが彼の影響を受けただろう。代表曲「Children’s Story」は子供たちがおじさん(Slick Rick)に「寝る前にお話しを1つ聞かせて」と言うところから始まる。
ストーリー:おじさんが話したのはある道を踏み外した少年の物語だった。その少年は友達から「金を稼ぐためにひったくりをしないか?」と誘われ、彼らは一回のつもりで犯行に及んだ。少年は簡単に金を稼げることに味をしめ、盗みを繰り返すようになる。ある日男性をひったくりしようとしたら、その人はおとり捜査官だったのだ。少年は捜査官にたいして銃を振りかざしたが「ここで引き金を引いたら何年牢屋に入るかわからない」という気持ちから、その場を離れ街を逃げ回ったのだ。逃げた先で妊婦を人質にとったが、彼は自分に残っていた良心から自分の過ちを理解していたので人質を解放したのである。まもなく少年は取り囲まれた警察官に銃殺され、命を落とした。
メッセージ:最初は少し金を稼ぐたけのつもりかもしれないが、このような過ち/判断の繰り返しはエスカレートしてしまうというメッセージが込められている。人質の解放からも彼には良心があることがわかるが、一回泥棒という犯行に及んでしまったため、引き返せなくなってしまった少年のストーリーなのだ。
Slick Rickの曲には他に「Hey Young World」など、若者に対して「真面目に生きろ」というメッセージが込められた曲があるのだが、実は彼自身も殺人未遂の罪で捕まっているのだ。この事件については様々な憶測が飛んでいるが、真相はわからない。今彼がChildren’s Storyを聞いてどう思うのだろうか?
Jay Z – December 4th
ヒップホップ界きってのリリシストであるJay Z。この曲は、彼自身が生まれてからの半生が歌われている。
ストーリー:この曲はJay Zの母が語るパートからはじまる。「ショーン・カーター(Jay Z)は12月4日に4人兄妹の末っ子として生まれました。何の痛みもなく産まれてきたことで、彼が特別な子供だということが分かりました」と語る。
Jay Zが幼少期に贅沢をできずに惨めな思いしたり、父親が家からいなくなってしまったことを語る。彼は学校に通い、良い成績をとっていたが、自分の心の中に悪魔(父親に対する思い)によって道を踏み外したのだ。彼はハスラー(ドラッグディーラー)の世界に入り、高価な洋服や女を手に入れたが、彼は日々ストレスの中にいた。ドラッグの為に死んでいくものや、仲間たちが指を切られるところを目にしていたからだ。そして彼はラップを本気でやってみようと決心する。それは自分の為でもあり母親を安心させる為でもあった。「この生き方を選んだのは俺だし、この生き方も俺を選んだんだ」と最後に語る。これはJay Zのライフストーリーなのだ。
メッセージ:自分が後悔しない生き方をしよう。
いかがだろうか?「ストーリーとオチがあるヒップホップ曲5選」の第1弾はこの5曲を選んでみた。このようにヒップホップは「言葉の芸術」であり、とても綿密に練られた作品だと感じる。部屋で映画や小説を観るのもいいが、ヒップホップの物語を深く感じてみることで、今まで見えてこなかった世界への扉を是非開けてほしい。
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