KISSのジーン・シモンズがラップを批判、N.W.A.がロックの殿堂入りスピーチにて反論
Writer: 渡邉航光(Kaz Skellington)
ラップの死を期待している
こう語ったのはロックバンドKISSのGene Simmons(ジーン・シモンズ)だ。
-ただ喋っているだけの音楽ではなく、メロディや歌詞に意味がある音楽が復活することを願っている。なのでラップのような音楽は音楽じゃない
彼はKISSのアルバム「Destroyer」の発売40周年記念のインタビューにてこう言った。さらにはN.W.A.がロックの殿堂入りするべきではないと批判した。
-RUN DMCやGrandmaster Flashがロックの殿堂入りしているのもおかしい。彼らがアーティストとして良くないという話しではなく、ギターも弾かない、歌いもしない、人の曲をサンプルして喋っているだけのアーティストは「ロック」ではない。
「上記のアーティストが良くないという話しではない」という発言と「ラップというジャンルが死ぬことを期待している」という発言が並行しているのでちょっと頭に?が浮かんだが、ジーン・シモンズがあまりヒップホップカルチャーに明るくないのは確かだ(というよりジーン・シモンズのインタビューは今まで度々問題発言を起こしてきたのであまり耳を傾けないのが正解なのかもしれない)
N.W.A.の主張
このジーン・シモンズの発言を受けN.W.A.がロックの殿堂入りセレモニーでこう主張した。
MCレン: Mr.シモンズ、残念ながらラップは死なない。俺らはここにいるべきなんだ。
アイス・キューブ: 俺らはロックだよな?ロックというのは音楽性の話ではない。それはブルース、ジャズ、ビーバップ、ソウル、ロックンロール、ヘヴィメタル、パンク、そしてヒップホップに込められた”魂”である。
“ロック”は音楽性の話しではなく、抗う精神性の話だと主張するアイスキューブ。さらにはこう続けた。
ロックというのは固定された概念や既に開拓された道をそのまま進むことではないと信じている。ロックは逆に自分の道を信じ、新たに”自分の音楽”を突き進めることなのではないだろうか。それがロックの精神であり、それが俺らN.W.A.だ。
この発言を受けてジーン・シモンズがこうツイートをする。
ジーン・シモンズ:Ice Cubeよジミー・ヘンドリックスがヒップホップの殿堂に入ったら教えてくれ。そしたらお前が正しいと認める
ヒップホップ殿堂入りなんてものは存在しないが、実際ロックの殿堂入りには音楽ジャンルとしてのロック以外のアーティストもかなり入っている。
この発言を受けアメリカのネットでは様々な意見が行き交っている。
意見が行き違っているのはお互いの「ロック」に対する見解の違いであろう。ジーン・シモンズは「ギター+ベース+ドラム」の音楽ジャンルという観点で「ロック」を解釈しており、N.W.A.は「抗う精神」という「ロックな精神性」を語っている。ここは何を重きにして音楽をやっているかによって解釈が変わってくるので、正直「アーティスト殿堂入り」という名前にでも変更しない限り論争は続くであろう。
ここを「解釈の違い」として解決させたとしても、ジーン・シモンズの「ラップは音楽じゃない、ラップの死を期待している」という発言に対しては何の解決にもなっていない。
ロックとヒップホップの論争
極端なロックファンのヒップホップ批判コメントとしてよく見るのは「ラップはクソ」というなんとも無知をさらけ出したコメントである。
確かにテレビやラジオに流れているヒップホップだけを聞いていると、ジーン・シモンズが言うように「メロディもなく喋っているだけで音楽性がないもの」と勘違いをするロックファンも多いだろう。実際にここ数年のトップチャートには「これヒップホップ名乗っていいのか?」と疑問に持つような曲もある。
ただ「ヒップホップやラップをやるのに才能が全く必要ない、なんの内容もない」と言っている人は正直ヒップホップを聞いたことがないのではないかと思ってしまう。むしろヒップホップは深い内容と才能しかないジャンルなのではないかと思っている。型にはまっていない「リズムを作る」ということの難しさを知らないリスナーもいるのだ。
今回のジーン・シモンズの発言を受け、リリシストとして知られるTalib Kweliがお怒りなようだ。
タリブ・クウェリ:内容がないとか言っているがどっちが凄いリリックか比べてみろ。俺 V.S. Kissだ。ヒップホップもロックも様々な人達を救ってきた。だがKissはロックじゃない、ただのマーケティングだ。
確かにジーン・シモンズは歌詞についても語っているが、正直KISSの曲も「Love」というキーワードが多く、内容に物凄く凝っているわけではない。歌詞だけ見ればN.W.A.のほうがそこら辺のパンクバンドよりよっぽどパンクロックである。ここで言っておくが筆者はもちろんヒップホップファンであるが、ロックもKISSも大好きである。私が最初にギターで完コピした曲はDetroit Rock Cityだ。
逆にタリブが言うようにKISSはマーケティングの結果なのかも知れないが、実際にライブや楽曲の迫力、メンバーのカリスマは「ロックスター」にしか出せないものであろう。このように「興味がない」「知りたくない」という感情からか、ミスコミュニケーションが起こっていると感じる。
「知らない」ということは時には過ちの源泉になる場合がある。
「ロック」と言ってもただパワーコードをジャカジャカやっているバンドもいれば、物凄く精密に作られた楽曲もある。ヒップホップもサンプリングを使っているものもあれば、下記のKendrick Lamarのライブのようにジャズやファンクのエッセンスを盛り込んだ演奏的にもレベルが高い楽曲もある。
結論としては一つのジャンルに偏ってしまうと他のジャンルの「本質」が見えなくなってしまう場合がある。そのジャンルにて露出しているものだけではなく、「マスター」と呼ばれる人たちの凄味や、カルチャーとしてのルーツを吸収することにより、偏見がなくなり音楽家として成長できるのだと感じる。
本質として重要なのはジャンルの名前についていがみ合うのではなく、功績を残した偉大なアーティストを讃え、後世がその恩恵を平等に受けられるように伝えることだと私は感じる。
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