カニエ・ウェストのデビューアルバム「The College Dropout」6つの制作秘話を紹介
Kanye West(カニエ・ウェスト)
今では業界最大手と言っても過言ではないアーティストとなったカニエ・ウェスト。去年はトランプ関連であったり、入院であったりで世間を騒がせた彼であるが、常に新しいことにチャレンジする精神を持っている数少ないアーティストのうちの一人だと感じる。そんな彼のデビューアルバム「The College Dropout」は2004年2月10日に発売された。ソウルの再構築とでも言うべきか、このアルバムでソウルの「ボーカル」を上手くトラックに落とし込むスタイルを確立したのである。400万枚以上のセールズ記録し、「最もクオリティの高いデビューアルバム」と呼ばれているこのアルバムであるが、有名なエピソードから隠された豆知識まで紹介していきたい。
レーベル探しに苦労した
カニエ・ウェストはラッパーとしてデビューする前に、Jay ZやTalib Kweliなどを手がけ、プロデューサーとしての名を売っていたが、レーベル探しに苦労したと言われている。元々ソロアーティストとしてCapital Recordsからデビューする話が進んでいたが、数々のミーティングを経て結局契約までいたらなかったと語られている。当時のMTVインタビューによると、Capital RecordsのA&Rはカニエ・ウェストと契約する気はあったが、他のレーベル職員が代表に「カニエと契約しないほうがいい」と説得したらしい。
その後Jay Zのロッカフェラ・レコードとソロ契約をするに至るわけだが、当時のレーベル代表Dame Dashは「カニエと契約することにあまり乗り気ではなかった」と2008年のBlack Collegianにて語っている。プロデューサーとして確保しておくために契約したと言っても過言ではなかったらしい。ロッカフェラ所属の他アーティストとリリックの内容やアーティストイメージが違ったのが懸念点であったのだ。
大事故と名曲「Through the Wire」
2002年10月23日にカニエにとってターニングポイントになるできごとがあった。彼はLAのレコーディングスタジオで夜遅くまで作業をした後、運転中に眠りに落ちてしまったのである。居眠り運転が原因で大事故を起こしてしまった彼は、顎が砕けてしまうほどの重症となった。しかし、砕けた顎を修正するために複数のワイヤーを口に縫い付けられた彼の状態がクリエイティブ面を前に進めることになる。「俺は悲劇を勝利に変えるチャンピオンだ」というリリックの通り、彼はアーティスト人生を変える名曲を作ったのである。
それが上記の「Through the Wire」。チャカ・カーンの名曲「Through the Fire」をサンプルし「Through the Wire(ワイヤーの間から)」という言葉遊びをし、ワイヤーが口に縫い付けられた状態でこの曲をレコーディングしたのである。この曲の発音が少し聞き取りづらいのはこのためだ。彼は自分の状態や想いをこのアルバムにぶち込むことにより事故の痛みから回復していったのである。上記MVの最後ではチャカ・カーンのポスターに向かって感謝するシーンも見ることができる。
アパートでビートメイク
このアルバムは数々の大御所がレコーディングをしてきた、かの有名なLAのThe Record Plantにてレコーディングされているが、ビートのプロダクションは様々な場所で行われた。カニエの友人であり、マネージャーでもあるJohn MonopolyはMTVにてこう語ったとされている。
このアルバムにはきちんとした開始日がなかったんだ。カニエは昔から他人に提供しないで自分で使うと決めていたビートを溜め込んでいた。
さらにはカニエ・ウェストはニュージャージー州にて二部屋のアパートを借り、そのうちの一つを機材のあるホームスタジオにし、もう片方をベッドルームにしたとも語られている。
ヴィトンのバックに大量のフロッピーディスク
上記のソースによると、常にビトンのバックに大量のフロッピーディスクを持ち歩いていたらしい。フロッピーディスクにはデモ曲が入っており、いつでも業界人に渡せるように準備してあったとのこと。またほとんどのトラックは15分以内で制作されている。
リリース前流出を有効活用
このアルバムはリリースの数ヶ月も前に音源が流出しているが、カニエ・ウェストはその流出をなんと有効活用したと言われている。彼は流出した音源の評判をチェックし、それに基づいて客観的に自分のアルバムを見る機会をつくったのだ。「完璧」にするため、流出後に全ての曲のミックスとマスタリングをしなおしたのである。そのプロセスでWu-Tangのオール・ダーティ・バスタードとのコラボ曲「Keep the Reciept」や、Consequenceとのコラボ曲「The Good, the Bad, and the Ugly」が最終カットから外されたのだ。
実際に上記の外された曲と、最終カットに含まれた曲を聴き比べてみると確かにサウンドクオリティに差がある。また収録曲を聞くと、カニエが目指していたイメージと違ったと感じることができる。ギャングスタラップっぽい曲が業界のスタンダードとなっているなか、彼はそれから離れたかったのである。
さらには流出からリリースまでに3回も発売が延期になっていることから彼の完璧主義が伝わるであろう。流出してからクオリティへのこだわりがさらに強くなった彼は、ドラムパターンを変更したり、オーケストラやコーラスを曲に追加したり、大幅な変更を加えたのだ。
アルバムテーマ
「The College Dropout(大学中退者)」というタイトルのこの作品だが、カニエ・ウェストはこのアルバムのテーマをこう語っている。
自分の人生を自分で選択をすることの大切さを伝えたい。社会に「こうしないといけない」と言わせるな
さらにこのジャケットにも「学校という群衆のなかでの寂しさ」という想いが込められている。自分の人生を自分で決めることの大切さが充分に伝わってくるテーマだと感じる。
最もクオリティが高いデビューアルバムと言われている「The College Dropout」の制作秘話はいかがでしたか?カニエ・ウェストと言えば毎回進化する音楽スタイルではあるが、このアルバムでは彼の原点を聞くことができる。個人的には思い出補正やサンプルのクオリティもあり、カニエ・ウェスト作品のなかで最も気に入っているアルバムとなっている。彼のサンプリングを体験できるサイトなどもあるので、是非チェックしてみてほしい。彼のアーティストとしての素晴らしい才能がフルで表れているアルバムである。
ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington):カリフォルニア州OC育ちのラッパー兼Playatunerの代表。umber session tribeのMCとしても活動をしている。
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