J. Coleの「4 Your Eyez Only」から印象に残ったリリック8つを解説。映画のようなストーリーと最大のオチとは?

Writer: 渡邉航光(Kaz Skellington)


 

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J. Cole 「4 Your Eyez Only」

12月9日にリリースされたJ. Cole(J.コール)の期待の新作「4 Your Eyez Only」。アメリカをはじめ、日本のヒップホップファンの間でも盛り上がっており、リリシズムもさすがJ. Coleと言いたくなるようなクオリティとなっている。2年前にリリースされた「2014 Forest Hill Drive」に比べ、重い内容となっている。とにかくアルバムとしてのストーリー、オチが素晴らしいのでこの記事の最後まで読んで頂きたい

 

そんな「4 Your Eyez Only」から印象に残ったリリックを8つ選び、解説をしてみた。なお、YouTubeに音源がアップされていないので、Apple Musicのウィジェットを貼っておく。

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トラック2:Immortal


Have you ever served a fiend with a pocket full of soap? / Nigga I can tell you things that you probably shouldn’t know / Have you ever heard the screams when the body hit the floor? / Flashbacks to the pain, wakin’ up, cold sweats

ソープ(クラックコカイン)がポケットに詰まった状態で悪魔に仕えたことがあるか?俺はお前が知るべきではないことを教えることができる。体が床に落ちていくときに聞こえる叫びを聞いたことがあるか? 痛みを思い出して、冷や汗を書きながら起きる。

 

このアルバムのテーマは「死」と言っても過言ではないだろう。この「Immortal」という曲は彼の友達についてラップしている。「2014 Forest Hill Drive」に収録されている’03 Adolesenceという曲の続きとなっているようだ。その曲はコールが大学に入る前、その友人にドラッグディーラーになりたいから紹介してくれと頼んだが、「お前はこれから大学にいき、俺らとは違ういい人生を歩むから駄目だ」という理由で拒否されたという内容になっている。この曲は2つの別々の道を行くことになった2人のコントラストとも言えるだろう。友人は地元のドラッグディーラーとして稼ぎ、いずれ亡くなってしまう。

 

To die a young legend or live a long life unfulfilled / Cause you wanna change the world / But while alive you never will / Cause they only feel you after you gone, or I’ve been told

若き伝説として死ぬのか、満たされない人生を長く生きるのか。世界を変えたいと言うけど、生きている間には、それは実現されない。この世の中ではいなくなってからはじめて評価がされるんだ。

 

彼が最も尊敬するラッパー2PacやNotorious B.I.G.も、亡くなって改めて世界を変えられるほどの影響力をもつようになった。自分の音楽を世の中に広めることだけがモチベーションになっているコールにとっては、2つのオプションが存在しているようにも思える。2Pacやビギーのように若き伝説として死に、キャリアのピークを常に思い出してもらえる存在になるか、Jay Zやスヌープのように長生きをし、ピークは過去の物として忘れられてしまうか。

 

They tellin’ niggas sell dope, rap or go to NBA, in that order / It’s that sort of thinkin’ that been keepin’ niggas chained

黒人が成功するにはドラッグを売るか、ラップをするか、NBA選手になるか、という選択肢しか与えられていないと言われている。だが、そんな考え方にとらわれていることが、俺らを鎖に繋いでいる。

 

この曲、Immortal(不死/不滅)はコールの人生観、彼がどのような環境にて育ったのかを見ることができる。過酷な環境で育った人たちがどのようにして伝説になり、不滅になるのか、さらに伝説になることのコストがどのようなものなのかを語っているように思える。

 

トラック3:Deja Vu


She fuck with small town niggas, I got bigger dreams

彼女は小さい街にとどまるような男が気に入ってるけど、俺にはもっと大きい夢がある。

 

このトラックはコールが気になった女性についてラップしている。彼は大きい夢を持っているが、その女性は彼女を一人でクラブにいかせるような男と交際している。

 

トラック4:Ville Mentality


Give up my pride, never / Show my pain, never / Dirt on my name, never

プライドを諦めることは絶対しない。自分の痛みを見せることは絶対しない。俺の名前に泥を塗ることは絶対にしない。

 

彼はメディアにはあまり登場しないことで知られている。自分のことを知られ、名前に泥を塗ることを避けているのだ。彼の人生において重要なのは「家族と音楽」ということ。

 

トラック6:Change


I know you desperate for a change at the pen glide / But the only real change come from inside

そのペンを走らせたいがため、チェンジを求めているんだろう。しかし本当のチェンジは内部からしか出てこない。

 

このチェンジという曲はコールが子供から大人になるプロセスを説明しているようだ。「ペンを走らせる」というフレーズには「チェックにサインする:お金を使う」、「契約書にサインする:レコード契約を結ぶ」、「ファンにサインを書く:人気アーティストになる」という意味が込められていると考えられる。大変な時期に、このような人生の変化が訪れることを渇望していたが、「真の変化」は内部(心)からしか生まれないと語っている。

 

I reminisce back to a time where niggas threw they hands / All of a sudden niggas pop a trunk and then we scram / Finger on trigger make a little nigga understand / What it’s like to finally be the motherfuckin’ man

昔は戦うのに手を使っていたときを思い出す。しかし今は急にトランクから銃を取り出す。自分が男らしくあるために、相手に自分の強さを見せつけるために、トリガーに指をかける。

 

このラインではフッドにいる「暴力が自分の強さだと勘違いする男たち」について書いている。コールは成長し、暴力を振るい、自分が真の男だと思っている人たちは「リアル」ではなく「毒」だと指摘している。

 

トラック10:4 Your Eyez Only


My worst fear is one day that you come home from school / And see your father face while hearing ‘bout tragedy on news / I got the strangest feeling your daddy gonna lose his life soon / And sadly if you’re listening now it must mean it’s true

あなた(娘)が学校から帰ってきてテレビを見たとき、お父さんの顔が悲惨なニュースに映っている。それが俺が最も恐れていることだ。なぜかわらかないが、お父さんの命はもうすぐ終わってしまう気がするんだ。もし俺がいない状態でこれ聞いているなら、それが本当だったってことだ。

 

最後の曲でありタイトルトラック「4 Your Eyez Only」は彼の最近生まれたと噂されている娘に当てているように思える。Immortalでもわかるようにコールは、常に「死」と「生」について考えている。キャリアのピークがきたコールは、死んだら自分が伝説になることを知っていることもあり、「死」にたいして得体の知れない近さを感じている。

しかし最後に、この作品が亡くなった友人を題材にしたアルバムだと公開する。

ドラッグディーラーとしてストリートライフにつかまった結果、22歳の若さで亡くなってしまった友人の目線に立つと理解できる作品とリリックになっている。もちろんコールも娘が生まれたり、結婚をしたりで彼と共通な部分もある。ストリートライフを続行した友人と、街から出ていき、夢を追いかけた自分の人生をなぞることで、「生」と「死」のコントラストを描いている作品なのだ。

 

そして当曲にはその友人が「俺はもうお前に会えないかも知れない、具体的には話せないが、明日には生きていないかもしれない。お前が育ったような家族で俺も育ちたかったよ。最後のお願いだ、俺の人生ストーリーについて書いて、娘がもう少し成長したら娘に聞かせてやってほしい」とコールに電話するシーンがある。

 

そしてコールは友人の娘にたいしてこのようにラップで続ける

 

「あなたの父親は真の男だった。それは彼が冷酷な男だったからでもない。キャデラックに乗っていたからでもない。ハードなやつだったからでもない。犯罪を犯して牢屋にいた経験があるからでもない。あいつはあなたを愛していたから真の男なんだ。4 Your Eyez Only(あなただけに宛てたメッセージ)」

 

そう、この作品はギャング的なストリートライフを送ったがために22歳で亡くなってしまった友人について、そして彼が愛した娘にたいして捧げた作品ということがアルバム最後のヴァースでやっとわかるのだ。フッドではハードであり、犯罪を犯すような男が真の男と言われがちな風潮があるなか、「真の男」がなんなのかということを、友人と娘のエピソードから説明しているのだ。最初に解説した「Immortal」には「亡くなってからしか世界は変えられない」というフレーズがある。彼の友人が亡くなって、コールのアルバムの題材になり、フッドにおける「愛することにより真の男になる」というメッセージを伝える影響力になる、というポイントが合点がいく。

最初にこの作品を聞いたとき、私は個人的には前作のほうが良いと思っていた。しかし彼のリリックを考察してみると、いかにこのアルバムが深くストラクチャーされているかと知ったと同時に、なんとも言えない気持ちになった。彼のダークな感情から、自分の人生と友人の人生を比較し、「生きること」について語っているこの作品は、リスナーの人生を変えてしまう能力を持っている。そこを理解をした上で、間違いなくこの作品は名作映画に匹敵するほどの作品と言える。J. Coleのリリシズムにどっぷり浸かってしまった。是非このような体験を皆様にもしていただきたい。

ライター紹介:渡邉航光(Kaz Skellington)カリフォルニア州オレンジカウンティー育ちのラッパー兼、Playatunerの代表。FUJI ROCK 2015に出演したumber session tribeのMCとしても活動をしている。

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